ブアさんの“対照研究 「マイペンライ」~日タイにおける解釈の違い~”

4.タイ社会で使われる「マイペンライ」


1.デパートでの実例

 私の2005年の調査では、「あまりない」「めったにない」と回答した人の数は、日本人(5.5%、1.3%)、タイ人(10.2%、4.5%)というように両者とも少人数しかいなかった。逆に「非常によくある」「ときどきある」と答えた日本人(37.5%、37.5%)、タイ人(37.5%、36.3%)というように、両者ともこの2つの項目を合わせると過半数を超える人がタイ社会でこの実例のようなことが「ある」と答えている。また、1997年の調査でもタイ人は、「よくある」「ある」「ときどきある」との回答数が94.8%あった。このことから少なくとも1997年~現在の2005年までは、この実例7のようなことはタイ社会に見られることであることが言える。しかし1997年の調査では、日本人で「非常によくある」「よくある」「ある」との回答をした人は6.4%に留まり、その多くは「わからない」という回答をしている。「わからない」という項目は、はっきりとした意見を言葉で率直に表さない日本人にとっては非常に曖昧な言葉であるため、本当にわからないのか、それともこの質問をただ回避するために選んだのかわからない。そのため何とも言えないが、今回の調査と1997年の調査を比べると、この実例7のようなことはタイ社会において存在していたが、1997年の時点では日本人が実例7のようなことに遭遇することは少なかったと言える。そして現在は、日本人も実例7のようなことに遭遇する機会が増えたため、今回の私の調査では日本人の「ある」と答えた回答数が増えたと考えられる。なぜ日本人の実例7のようなことに遭遇する機会が増えたのかを追求するのは、また新たに厳密なアンケートをしなくてはわからないことであるが、私はタイに滞在する日本人が増えたことや、タイ語を学ぶ日本人が増えたことが影響しているように思う。なぜなら、そういった日本人が日本人だけの中で留まっているのではなく、タイ社会の中でタイ人と関わっていこうとしたからこそ、日本人がタイ社会にある実例7のような出来事に遭遇したのだと思う。これは異国の地に外国人が住む上ではとてもいいことに思う。母国ではない国に興味を持たなければ実例7のようなことに触れることはないと思うからである。
 (2)の適切さに対する質問においては、肯定的な回答をした日本人はタイ人の回答数よりも多いという結果になった。否定的な考えの回答は、「非常に不適切」(日本人11.1%、タイ人10.2%)以外の項目ではタイ人のほうが日本人よりも回答数が多い結果となった。
 (3)の失礼さを問う質問において私の2005年の調査では、日本人タイ人も同様に、「失礼」と回答している人が23.6%、37.5%というような結果になった。しかし、タイ人のほうが「失礼」と回答した回答数が多く、日本人よりも否定的なとらえ方をしていた。1998年の調査では、肯定的な回答をした者はタイ人(24.5%)日本人(24.4%)とほぼ同じだった。否定的な回答をした者の回答数はタイ人が日本人より12.5%高い回答数となっている。
 (4)の責任感を問う質問において私の2005年の調査では、日本人の回答数が一番多かったのは30.5%で、「責任感がある」という肯定的なとらえ方だったのに対して、タイ人の回答数が一番多かったのは38.6%で、「無責任」という否定的なとらえ方になるという、正反対の結果となった。1998年の調査では、肯定的な回答をした者はタイ人日本人より1.0%高い回答数となり、日タイで大変近い数字になった。
 (2)(3)(4)の結果をまとめると、1997年の調査で似たような回答数になったところもあるが、全体的に見てこれは日本人がタイ人よりも肯定的に考え、タイ人は日本人よりも否定的に考えていることが言っていいと思う。この結果になった元の理由は、私が今回調査したこの項目を選んだ理由から読み取ることができると思う。まず整理してみると、 日本人の肯定的な意見は(1)「きれいにしてくれようとした」「別の商品に取り替えてくれてもいいが、ブラシまで使って汚れを落とそうとしてくれた」「精一杯の努力が見られる」と、(2)「タイではこんな感じである。タイ文化」「タイ社会においてはやるべきことはやってくれた」「細かいことは気にしない」「タイ社会では店員が不適切は当たり前」という大きく分けて2通りの意見があった。タイ人の否定的な意見は(1)「店員は商品を売りたいからこんな言葉を使った」と、(2)「お客さんが新品のきれいな物がほしいのは当然」「よくないサービス」「お客さんを大切にしたほうがいい」という大きく分けて2通りの意見があった。日本人の(1)とタイ人の(1)は両方とも店員は自分なりのサービスをしてくれたという肯定的な考えだが、日本人はそれをタイ社会では仕方ないと考えているから肯定的な「適切」「責任感がある」となり、タイ人は店員の配慮はわかるが許されないと考えているから否定的な「不適切」「無責任」となっていると考えられる。((2)も(1)と同じなので省略)つまり、日本人はタイ人の人生は楽しむべきもの、トラブルや失敗をあまり深刻に考えないという国民性を過剰にとり解釈しているからこのように「タイだから仕方ない」の言葉で物事を片付けてしまっているところがある。しかし、タイ人も何でも許すのではなく、しっかりとしたこれは悪いという概念があり、それを外れた場合にはしっかりと間違いを指摘している。日本人などの外国人にとっては他文化のことであるから、そのボーダーラインを明確に認識することは難しいことであるが、過剰視してしまっている今の状況もタイ人にとっては不愉快であるかもしれないことを頭に入れておきたい。また、これがタイ人とのコミュニケーション上で誤解やすれ違いの原因の1つの原因になっているのではないかと私は思う。

2.屋台での実例

 (1)のタイの社会で実例8のようなことがあるかという質問については、私の2005年の調査では、日本人の一番回答が多かったのは「ときどきある」で47.2%、ニ番目は「非常によくある」で19.4%であり、タイ人の一番回答が多かったのは「非常によくある」で44.3%、二番目は「ときどきある」で43.1%となり、この結果からタイの社会で実例8のようなことがあると言ってよいと言える。1997年の調査ではタイ人の100%が「よくある」と回答し、日本人の93.4%が「わからない」と回答している。第四章の1でも述べたように「わからない」という項目は曖昧すぎて、結果として比較することができない。しかし、タイ人は1997年からと言ってよいが、現在タイの社会で実例8のようなことがあると言える。
 (2)の適切さに対する質問においては、私の2005年の調査では、日本人の回答は「適切」が38.8%、「不適切」が34.7%となり日本人の中で意見が正反対にわれた。これは第四章で述べたように、日本人はタイ人の人生は楽しむべきもの、トラブルや失敗をあまり深刻に考えないという国民性を過剰にとり解釈しているからどこがタイ社会での間違いのボーダーラインか判断できなく迷って判断できなかったと私は理解する。その理由としては、やはり実例7のように項目を選んだ理由が「新しい物に取り替えてくれたから」という肯定的な考えと、「お店ならちゃんとした物を出すべき」という否定的な考えの二種類の意見が出たことにある。
 一方タイ人の回答は、今回の2005年の調査では「不適切」が39.7%となり回答の中で一番回答数が多く、1997年の調査では「やや不適切」が36.2%で両方とも否定的な意見であった。
 (3)の失礼さを問う質問においても2005年の調査では、(2)と同様に日本人の回答で一番多かったのは「失礼ではない」という肯定的な意見であったが、二番目に多い項目は「やや失礼」、三番目に多い項目は「失礼」という否定的な意見であった。また(3)の失礼さを問う質問においても、日本人の一番多い回答は「無責任」で37.5%、タイ人の一番多い回答は「非常に無責任」で39.7%と日本人もタイ人も同様に否定的な意見になる結果となったが、タイ人は二番目に多い項目も否定的な「やや無責任」で31.8%であったのに対して、日本人の二番目に多い回答は「責任感がある」で23.6%となり肯定的な意見が二番目に多い回答数になる結果となった。
 (1)(2)(3)の全てにおいて、日本人は肯定的な回答をするのか、それとも否定的な回答をするのか迷っている。このことから、実例8の屋台のおばさんとの会話の中での「マイペンライ」の使い方は、日本人にとって非常にどこがタイ社会での間違いのボーダーラインか判断するのが難しい「マイペンライ」の使い方になると思われる。

3.交通事故についての実例

 (1)のタイの社会で実例9のようなことがあるかという質問についての2005年の調査では、日本人もタイ人も同様に「非常によくある」日本人23.6%、タイ人35.2%という結果になり、一番多い回答であった。二番目に多い回答は「ときどきある」日本人16.6%、タイ人28.4%になった。このことからタイ社会では実例9のようなことがあると思われるが、「ない・聞いたことがない」という回答でタ人が2.2%だったのに対して、日本人は15.2%となり、二番目に多い項目の「ときどきある」16.6%とそう変わらない数値になった。このようなことから、タイ社会では実例9のようなことはあるけれども、日本人が遭遇していることは少なく、ないと回答する人が多かったと言える。1997年の調査でもタイ人は「よくある」と答えた人が100%だった。今回の調査の日本人の回答者の一番長いタイ滞在期間は17年であるし、日本でも実例9の交通事故に合うという不幸なことはそう多くないことであるので、実体験として、この実例の「マイペンライ」について調査することはやはり難しかった。
 ここからの(2)~(4)までの質問に日本人は、もしこのようなことがあったらというふうにとらえ、回答してくれたとし、論じていくことにする。
 (2)(3)の適切さ、失礼さを問う質問について2005年の調査は、日本人もタイ人も同様に「非常に適切」「非常に責任感が強い」という項目の中で一番肯定的な回答は「非常に責任感が強い」と回答した日本人が1.3%いただけで、他は一人もいず、否定的な回答をした人がほとんどであった。これは、日本社会でも一緒で、事故を起こしてしまった人が「マイペンライ」を使うことは不適切であることが言えると思う。否定的な理由を選んだ理由としても日本人「ぶつけたので申し訳ないという態度をすべき」「謝るべき」、タイ人「被害者が判断することである」「先に謝るべき」「謝ってから大丈夫ですか?と言うべき」というように意見は同じで事故の時に「マイペンライ」は使えないことが解る。理由として「マイペンライ」を使うのはおかしいと指摘している人もいて、完全に自分に非がある時は日本もタイも同じで謝らなくてはいけないという常識は同じである。日本人の回答で興味深いものがあり、以下のようなものであった。
 「私もほぼ同じ状況でタイ人のおばちゃんに車をぶつけられたが、先方に100%非がある以上最初に少しでも謝罪の言葉が欲しかった。そのおばちゃんは「見えなかった、見えなかった」を繰り返して最後まで一切謝りの言葉を発しはしなかった。「マイペンライ」とさえ言わなかった。」(日本人男性のアンケートより)
 日本人でも同様だが、タイ人でも人によっては自分が悪くても謝罪をしない人がいる。それはその人の性格でよくないことである。それを「タイ人はみな失礼な人間である」と日本人に仮定されてしまうことはやはり悲しいことである。日本人が日本人をこの人はどうゆう人なのかと判断するのと同じようにタイ人のこともタイ社会全般と一緒にせずに判断してほしいと思う。



タイではTrue Moveを使って1日480円~でネットつなぎ放題!




HOMEへ レポートを書く TOPへ